学部からの最新情報
心理学部
2015.04.02

■人文学部心理学科リレーエッセイ NO.08 「身体は口ほどにものをいう」


身体は口ほどにものを言う

小さい頃から,自分の手のひらが嫌いでした。発表や試験,自分にとって大事な場面になると手のひらはいつもたっぷり汗をかいていました。マイクはべたべた,解答用紙の手元はくしゃくしゃ。それがなんだかとても恥ずかしいことに思えてなりませんでした。

程度はさまざまでも,「手に汗にぎる」できごとならば一度は経験があるのではないでしょうか。

これは緊張や興奮によって生じる汗,精神性発汗といわれています。身の回りでおこるできごとに対して,脳はそれが自分にとって重要かどうかを判断します。重要だと判断されると,いつも以上にエネルギーを作りなさいと命令がだされます。心臓は活発に動き,全身にたくさんの血液を流します。それに伴い心拍の増加や筋肉の収縮などさまざまな身体反応が生じます。そのひとつが精神性発汗です。

精神性発汗にはどんな意味があるのでしょうか。これは生命の危険にあったときの反応と関連しており,人間だけではなくほかの動物にもみられることがわかっています。外敵など命の危険に遭遇した場合,戦ったり逃げたりしなければいけません。そのとき血液のめぐりをよくし,武器をもつ手を滑りにくくするため,切り傷を受けにくくするために手を湿らせることは,戦いを有利にするという意味がありました。つまり,緊張して汗をかくということは重要なときに一番よい対処ができるよう身体が戦う準備をしているというサインなのです。

このように身体反応はさまざまな心の状態を教えてくれます。ときには都合のよいようにいいかえられてしまう言葉よりも正直であるといえるかもしれません。すなわちそれは本人さえ気づいていない心の状態へのアクセスをも可能にするということなのです。そして,こうやって目にも見えず手にも取れない心をあの手この手でつかまえようとすることこそ,心理学の面白みだとおもうのです。

そういえば、幼稚園の遠足のとき好きな男の子とは絶対に手をつなぎたくなかったっけ。心の内が手のひらからこぼれてしまうのを恐れていたのでしょうか。 山川香織(生理心理学)