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心理学部

親心と子心の心理学

「親心子知らず」ということわざがあります。親がどれほど子どものことを思っていても,その気持ちはなかなか子どもには伝わらない,という意味です。しかし,反対のこともあるのではないでしょうか。子どもも親を心配したり,迷惑をかけまいと気を遣ったりしています。それを親が知らないこともあります。いわば「子心親知らず」です。

大学生になると,このようなすれ違いを経験する場面も増えるかもしれません。「帰りが遅いけれど大丈夫?」「就職活動は進んでいるの?」「その仕事で将来大丈夫なの?」。親としては心配して声をかけているのでしょう。しかし,子どもには「信用されていない」「自分のことは自分で決めたいのに」と感じられることがあります。逆に,子どもが「余計な心配をかけたくない」と悩みを話さなかったことが,親には「何も話してくれない」と映ることもあります。

実際,親と子では,同じ親子関係の見え方が必ずしも一致しないことが知られています。Houら(2020)は,親と青年の双方が親の養育行動を評価した研究をまとめています。その結果,親子の評価の一致はそれほど高くなく,平均的には親のほうが,自分の養育を子どもより肯定的に評価する傾向がみられました。つまり,親が「十分に支えている」「子どものことを考えている」と思っていても,子どもが同じように感じているとは限らないのです。

ただし,ここで注意したいのは,親と子の認識に違いがあるからといって,どちらが正しく,どちらが間違っていると決められるわけではないということです。また,質問紙上の数値の違いが,日常生活の中でどのような言葉や行動として現れ,それが相手にどのように感じられているのかも,数値だけでは分かりません。同じ声かけでも,ある人には「心配してくれている」と感じられ,別の人には「干渉されている」と感じられるかもしれません。

さらに,大学生の頃は,親子関係のあり方そのものも変化していく時期です。落合・佐藤(1996)は,中学生から大学院生までを対象に調査し,親に守られる関係から,次第に親から信頼され,さらには親を支えるような関係へと変化していくことを示しました。親と子で関係の見え方が異なるなかで,その関係自体も少しずつ変わっていく。大学生という時期には,そうした二つのことが同時に起きているとも考えられます。

大切なのは,親と子では認識が違うことがあると知ったうえで,「では,自分たちはどのような関係でありたいのか」を考えることではないでしょうか。どこまで関わってほしいのか。どのようなときには助けてほしいのか。どのようなことは自分で決めたいのか。そして,自分は相手にどのように関わりたいのか。そこに,すべての親子に共通する一つの正解があるとは限りません。

「親心子知らず,子心親知らず」だからこそ,「自分にはこう見えているけれど,相手にはどう見えているのだろう」と考えてみることには意味があります。心理学を学ぶことは,人の心に答えを与えることだけではなく,自分とは異なる見方がありうることに気づき,その違いを踏まえて人との関係を考えることでもあるのかもしれません。

【引用文献】

落合良行・佐藤有耕(1996).親子関係の変化からみた心理的離乳への過程の分析 教育心理学研究,44,11–22.

Hou, Y., Benner, A. D., Kim, S. Y., Chen, S., Spitz, S., Shi, Y., & Beretvas, T. (2020). Discordance in parents’ and adolescents’ reports of parenting: A meta-analysis and qualitative review. American Psychologist, 75, 329–348.


(発達心理学・家族心理学 春日秀朗)

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