オンラインと対面はどちらがストレスフル?
初めて緊急事態宣言が発令された日から,もうすぐ3年が経ちます。私たちをめぐる状況も様々な変化がありました。そのひとつに,講義,会議,面接などのオンライン化があります。2021年の春,学生さんの一人がオンライン面接に関わることを卒業研究で調べたいと提案してきてくれました。大学4年間のうち3年間をコロナと共に過ごし,この春めでたく社会人となったある学生さんの研究をご紹介します。
私たちは面接など誰かの前で話をするとき,誰かから評価されていると脅威を感じ,緊張状態に陥ります。そのような状況のときに,心臓がドキドキしたり汗をかいたりといったような急性ストレス反応が生じます。このような現象は,対面での面接だけでなく,オンライン面接といった場面でも同様に生じることが知られています。
オンライン面接のどのような点に着目するか,学生さんとの議論はスタートしました。せっかくコロナ禍という前代未聞の出来事が起こっているのだから,このテーマで面白いことをやりたい!そんな熱い気持ちで議論を繰り返しました。そこで彼が着目したのは,ウェブ面接での「顔出し」についてです。ウェブのコミュニケーションツールは,顔表示を選択することができます。パソコン上に面接官が顔を出ししている場合と,顔を出していない場合で,ストレス反応がどのように異なるのかを検討しようということになりました。面接官の顔には,多くの手がかりが隠れています。顔や姿が見えていれば,好感を持たれているかどうか,気になってしまうはず。私たちは,面接官の顔が見えない方がストレスも感じず,スムーズに面接ができるのでは,という予測を立てたのです。
実験の結果,なんと面接官の顔表示に関わらず,ストレス反応が生じました。その差に違いはなかったのです。「あー失敗かぁ」と,二人でがっかりしたのは言うまでもありません。面白い発見をしたいと意気込んでいたのですから。ですが,ひとつだけ違いのある項目がありました。それが疲れです。面接官の顔表示がない方が,表示がある場合に比べて,疲労度が高かったのです。見えない方が気になっていろいろ考えてしまうと予想していましたが,そうではなかったのです。
では,なぜ顔が見えない方が疲れるのでしょうか。疲れの原因は,話している相手のことがわからないという状況なのではという結論に辿り着きました。顔が見えない方が,面接官の返答や自分の話していることなど,限られた手がかりから「今上手くいっているか」どうかを推しはかろうとするので,どっと疲れるのです。あぁわかるなぁ。オンライン授業で学生さん皆がカメラをオフにしている中,授業をするのはとても気を使ったものなぁ。と,すかさず私はぼやいたのでした。
やっぱり実際に顔を見て授業ができるというのは楽しいな,どんな話をしてみんなを驚かせようか,と学生さんの顔を思い巡らせながら今日も学生さんたちが待つ教室に向かいます。たまに,素っ気ない反応が返ってきて少しへこみますが,それもありがたいと思うことにしましょう。
小田太輝(2023)オンライン面接のストレス要因を探る―面接官の顔表示に着目して―
令和4年度東海学園大学心理学部卒業論文(未刊行)