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心理学部
2023.06.20

北マケドニア国旗の心理学

 国旗の心理学シリーズ2年半ぶりの第6弾は、北マケドニア国旗です。ブルガリアやユーゴスラヴィアによる統治、ギリシアによる干渉など歴史に翻弄されてきた地域で、社会情勢に応じたびたび国旗を変更してきましたが、現在の国旗は1995年に制定されました。グラフィックデザイナーの手によるものだそうですが、それにしてもインパクトのあるデザインです。赤と黄の色遣いも、“太陽ギラギラ”の構図も、まったく遠慮がなく、自信に満ちあふれています(ちょっと気恥ずかしくなるレベルですね…)。
 ここで知覚心理学的に着目したい点は、中央の太陽です。黄色い太陽の外側に赤いリングが見えませんか。このリング、輪の内側の輪郭は、もちろん黄色い円との境界線ですが、外側の輪郭は、黄色い放射線の端の部分以外、実際には存在していません。言い換えると、黄色い放射線の間の赤色部分と、先ほどから問題にしているリングの赤色部分はつながっていて、両者を分ける輪郭(刺激の段差)は存在しないのです。それにもかかわらず、赤いリングが、黄色い円と放射線の上に乗っているかのように、はっきりと知覚されます。これは一種の錯視で、物理的(客観的)に存在しない輪郭を心理的(主観的)に見ているという意味で、主観的輪郭とよばれる現象です。「ないものが見える」主観的輪郭は視覚的アピールが強いので、しばしばロゴやシンボルのデザインに応用されています。興味のある方は、ぜひ調べてみてください。
 なお、アレクサンドロス大王で有名な古代マケドニアは現在のギリシア領内にあり、ギリシアは「本来のマケドニアはギリシアである」と主張しているそうです。将来的に、また国情が不安定になることがあるかもしれない北マケドニアですが、この晴れがましい国旗のように堂々と歩んでいってほしいものです。
 

高橋晋也(知覚心理学・色彩心理学)