『終わり』を迎える時の心理
春は出会いと別れの季節ですが,言い換えれば何かが「終わる」ということが多い季節であるとも言えます。「終わり」には様々なものがあります。例えば卒業は「学校生活の終わり」ですし,別れは「人間関係の終わり」と言い換えられます。また,ダイエットのために一時的に好きな食べ物を制限したり,ゲームをクリアしてエンディングを迎えたりするのも「終わり」の一種であるといえます。人は日々,色々な形で「終わり」を経験しているのです。
「終わり」に関して,例えばよくあるテーマの1つに「人生最後の日に何を食べたいか?」というものがありますよね。最高級の料理を食べたい人もいるでしょうし,自分が最も好きなものを食べたい人もいるでしょうし,大事な思い出の品を食べたい人もいるかもしれません。これに関連して,「人は終わりを迎える際にどのようなものを好むのか」ということを心理学的に明らかにした研究を紹介します。
この研究では,日常生活における様々な「終わり」の場面を検討しました。例えば,「日課の散歩が出来る最後の日」,「自由に音楽が聴ける最後の日」,「自由に食事が出来る最後のタイミング」などです。研究では,こうした「終わり」の場面で人はどのようなものを好むのかが検討され,結果として大きく2つのことが示されました。
1つ目は,「人は『終わり』を経験する際に,『最高であることが分かっているが初めてのもの』よりも『最高ではないが馴染みのあるもの』を選びやすい」ということです。つまり,「人生最後の日」で例えて言うと,「食べたことの無い最高級の料理」よりも,「味はそこそこかもしれないが自分にとって馴染みのある料理」の方が選ばれやすいということです。ここで1つの疑問が生じますね。「最高級の料理」であることが分かっているのに,なぜ人は「そこそこの味の馴染みのある料理」を選びやすいのでしょうか?
2つ目に分かったことが,その理由になります。この研究では複数の実験により,「人は『終わり』を自分にとって意味のある形で迎えたい欲求がある」ということが明らかになりました。つまり,「馴染みのあるもの」はこれまでの人生における様々な経験と関連しているために「自分にとって重要で意味のあるもの」とみなされやすく,物事の「終わり」を価値づけることが出来るために選択されやすいということです。「人生最後の日」で例えるなら,「馴染みのある料理」を最後に食べることによって,これまでの人生における大事な場面を思い返したり日々の生活を振り返ったりすることができるため,良い人生だったと最後に思えるということですね。
新しいもの,刺激の強いものは魅力的で,惹かれてしまうことも多いでしょう。しかしどんなに新しく質の高い物よりも,人はよく馴染んだ思い出深いものを最後に味わおうとするのです。日々の生活の中,ふとした「終わり」が訪れそうなときは,自分にとって何が馴染み深く,何が思い出深いものなのかについて考えを巡らせてみると,より良い「終わり」が迎えられるかもしれません。
参考文献:
Winet, Y. K., & O'Brien, E. (2023). Ending on a familiar note: Perceived endings motivate repeat consumption. Journal of Personality and Social Psychology, 124(4), 707-734.