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心理学部
2025.01.22

トリニダード・トバゴ国旗の心理学


 国旗の心理学シリーズ第7弾は、カリブ海の小島トリニダード・トバゴ共和国です。あまり馴染みのない国ですが、コロンブスによる発見、スペインの植民地、イギリス支配を経て、1962年に独立しました。国名の通りトリニダード島とトバゴ島からなり、それぞれの由来は、前者はキリスト教の「三位一体」、後者は先住民が吸っていたタバコだそうです。
 そのトリニダード・トバゴの国旗は、独立時に公募デザインコンテストによって選ばれたとのこと。シンプルな斜線分割で、赤と黒の配色もなかなかお洒落です。領域間に白線のセパレーションを入れたセンスがよく、赤も黒も引き立たせていますね。さて、ここで注目したいのは斜線の向き(左上がり)です。斜線分割による国旗(斜帯旗と呼ぶそうです)は他にもいくつかありますが、ナミビア共和国、タンザニア連合共和国など、多くは右上がりのデザインです。その中で、あえて(?)左上がり…何か意図があるのでしょうか?
 普段、文章や表で手書きの斜線を引く場合、左下から右上に筆を動かすことが多いと思います。つまり右上がりです。右利きの場合、この方が手の動かし方が自然だからでしょう。簿記の余白線もこの向きですが、これは「〆」という文字の形態から由来しているそうです。また心理学的な研究知見としては、ラットを使った実験から、左上がりの線より右上がりの線の方が注視時間が長い、すなわち誘目性が高いことが示されています(隈元・柳田・下野, 2006)。このように生物的にも社会的にも、斜線の向きに関しては左上がりより右上がりの方が優位といえそうで、多くの斜帯旗が右上がりデザインになっていることとも無縁ではないでしょう。
 では、なぜトリニダード・トバゴ国旗は左上がり? …すみません、色々調べましたがその来歴や理由は判明しませんでした。各色の意味としては、赤は太陽・勇気・友愛、黒は国土・団結・献身、白は水・平等・希望などを象徴しており、シンプルなデザインと対照的に旗にこめられた意味が多いことが特徴だそうです。2本の白線は二つの島を隔てる海も表しているとのことですが、地図で見ると両島は左下と右上の位置関係にあるため、それらを隔てる海は左上がりの斜線で表すことが自然だったのかもしれません。つまり、トリニダード・トバゴの人々にとって海は「左上~右下」がデフォルト? …あくまで私の仮説です。
 

高橋晋也(知覚心理学・色彩心理学)
 
引用文献
隈元美貴子・柳田元継・下野勉 (2006). 幾何学的三角形の高い誘目性は右あがり斜線の高い誘目性に起因する ―歯科恐怖に対するリラクゼーション法の導入に際して― 山陽学園短期大学紀要, 第37巻, 29-38.