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超正常刺激

2016年12月20日心理学科

 たとえば、オスの尾がすごく長い鳥がいるとする。この鳥では、尾の長さがメスにとっての魅力になっていて、繁殖期にメスを惹きつける。そこで研究者がこの鳥のオスを捕まえて、現実にあり得ないほど長い人工的な尾を貼り付けてもとの場所に放した。するとこのオスはメスにモテモテになってしまった。不自然であっても、より長い尾がメスにとっていっそう魅力的に見えたのである。
 こんな風に、現実にあり得ない刺激によってより強い反応が引き起こされることがある。この刺激を超正常刺激(supernormal stimulus)という。これは、最大の心理的効果を引き出す刺激は、現実にありうる状態を超えて設定される場合があることを意味している。しかし、たとえば長過ぎる尾は生きていく上には邪魔なだけなので、いくらメスにモテるからといって、尾を長くするには限界がある。だから、もっと長い尾の方がより魅力的だとしても、現実にそんな長い尾を持つオスは生きていけない。そのため自然界では最も魅力的な尾の長さにはなれないわけだ。
 超正常刺激と似た状態はおそらく人間にも存在している(人間の場合、動物で研究されている超正常刺激と厳密に同じなのかは微妙なので、ここでは超正常刺激に類する現象と言っておこう)。最も魅力的なものは、現実を超えているのだ。
 たとえば、古典的な少女漫画の美少女は、目があり得ないほど大きく、しかも黒目には目がキラキラ輝いていることを表す光(というか星というか)も繊細かつ丁寧に描き込まれている。顔を現実にあり得ないように描いているわけだが、とてもかわいい女の子に見える。漫画のキャラや描写は超正常刺激的といえる。
 ところがこれはフィクションの世界にとどまらない。今や、さまざまな技術が私たちの環境をより魅力的なものに変えようとしている。変わった味付けのスナック菓子を食べると、味もかなり人工的に作れることがわかる。そういえば、品種改良によって、あり得ないほど甘い果実が作られるようになった。従来の楽器では出せない音を作り出す電子楽器と音響技術、コンピュータグラフィック技術、さらには複数の感覚刺激を人工的に作ってコントロールするバーチャルリアリティ技術は、現実以上にリアルで魅力的な経験を私たちに与えるだろう。かくして、世界はだんだんと超正常刺激化していくのである。
 
河野和明(進化心理学・感情心理学)