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勤勉性が将来を決める?

2017年02月21日心理学科



 先日、心理学科では卒業研究発表会が行われ、多くの4年生が立派に発表を終え、卒業していくことになりました。小学校から大学までの学生生活を終え、これから新社会人生活を迎えるわけです。4月からいったい何が待ち受けていて、今後はどのような人生を送っていくことになるのでしょうか。どのようなことがあっても、努力をして、幸せな日々を送って欲しいと願っています。さて、前回のリレーエッセイでは、パーソナリティ(性格)の外向性と内向性のトピックについて取り上げました。今回は卒業とこれからの長い人生にちなんで、勤勉性について扱いたいと思います。
 
 近年、人間のパーソナリティ特性が5因子(神経症傾向・外向性・開放性・勤勉性・協調性)から構成されるという考え方が広く支持されるようになり、生理学的な観点などからもその裏付けが進められつつあります。外向性も勤勉性もこのうちのひとつということになります。5因子モデルの広がりに伴って、パーソナリティ特性を扱う研究がさらに意義あるものになるために、将来に起こる何らかの成功や失敗、適応や不適応を予測する必要性があると指摘されるようになりました。すなわち、「パーソナリティ特性は何を予測するのか」という問題に焦点が当てられるようになってきたわけです。
 
 そういった背景もあり、最近はパーソナリティ特性のもつ将来への予測力に関する研究が広く報告、紹介されるようになりました。それらの研究においては、パーソナリティ特性は幸福感や身体・精神的な健康、友人関係や家族関係、職業選択や価値観など、さまざまな変数を予測することが指摘されています。また、それは20 年といったかなり先の将来であっても予測可能であり、知的な能力や社会経済地位の影響を考慮しても、一定の予測力を保つことが明らかとなっています。
 
 そのような研究の中で、特に人生において成功するために重要なカギとなるパーソナリティ特性として、5因子のうちの「勤勉性」が注目されています。イリノイ大学のロバーツらの報告によると、勤勉性が高い人々は学校での成績も良く、健康で長生きするということが指摘されています。さらに、彼らは対人関係も良好であり、犯罪に関係する可能性も低いことが示されています。現時点では、この勤勉性こそが「私たちの人生において成功するためにもっとも重要な要因」であり、勤勉性の高さは生涯にわたって物事をうまく進めるために機能するとまで考えられています。
 
 また、これと関連して、スタンフォード大学の心理学者であるウォルターミシェルが行った有名な研究も紹介しましょう。この研究は、その実験刺激にちなんでしばしば「マシュマロ実験」などと言われています。実験の内容は非常にシンプルなもので、保育園で4歳の園児たちに「今すぐマシュマロ1個をもらうことを選ぶか、それとも20分待ってマシュマロを2個もらうほうを選ぶか」を選択させるという課題でした。園児たちは目の前のおいしそうなマシュマロに対し、すぐに手を出して食べてしまいそうになる気持ちを抑えて我慢して、より多くのマシュマロを手に入れる課題が与えられたわけです。もちろん、すぐに食べてしまった子どももいましたし、我慢した子どももいました。
 
 その後、ミシェルはこの子どもたちを50年にわたって追跡調査し、我慢ができた全体の3分の1のグループと、そうでない3分の2のグループがどのような人生を送っているのかを比較しています。その結果、我慢ができた子ども達は学生の時の成績が良かったことや、ストレス対処能力や精神的健康度が高く、身体的にも健康であったことが示されました。もちろん、ここで我慢ができた子ども達は勤勉なパーソナリティ特性を有しているわけです。
 
 このように、勤勉性が我々の人生に大きな影響を与えることが示されるようになりました。日本においても、東京大学社会科学研究所が「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」によって、中学生時点の勤勉性が将来の労働所得を向上させているという研究結果が報告されており、中学時代の勤勉性が高かったグループと低かったグループでは年間平均所得に大きな違いが見られたことが報告されています。
 
 その結果、心理学だけではなく医療や経済学などさまざまな領域でこの特性が注目され、影響を与えるようになりました。教育界にも影響は及んでおり、近年は勤勉性を含めたパーソナリティ特性を「非認知能力」と呼び、「幼少期に伸ばすことができるもの」として扱われ、これを高めるための教育が文部科学省でも議論されるようになっています。まさに、パーソナリティ特性研究の結果が私たちの人生やこの世界の未来にまで大きな影響を与えようとしているわけです。
 
 しかし、ここで少し考えておきたいことは、「勤勉性は高いことが望ましい」のでしょうか。みんなでこれを伸ばしていくことがよいのかどうかについては、もちろん反対の考え方もあるでしょう。単純に考えて、高すぎる勤勉性は完全主義や強迫傾向にも結びつく可能性があります。また、そもそも勤勉性が高い生徒や会社員は、もしかしたら組織において単に都合が良いから、そういった人がこれまでの社会においては成功する側に選ばれてきただけなのかもしれません。マシュマロ課題についても、場合によっては必要もないのに満足を先延ばしする行為であり、非常にストイックで過度に喜ぶことを自らに禁じる傾向であるとも考えられます。マジメすぎるのも考えものですよね。みなさんはどう考えますか?(谷伊織)