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「意味」の意味、または、意味の理論について

2018年07月11日心理学部

言語学の意味論では、基本的問題として、言語表現(単語、句、文など)の意味とは何かという問題がある。しかし、満足のいく答えはまだないようである。ここでは、2つの説(意味の観念理論と指示理論)を取り上げ、問題点などを書き留める。

(1)観念理論:言語表現(以下、「表現」と記す)の意味とは、その表現を見たり聞いたりした人が頭の中に思い浮かべるイメージであるとする。
反論1:ある一つの表現に対して、異なる人が異なるイメージを持つ可能性がある。例えば、「家」という語に対して、ある人は、今自分が住んでいる2階建ての木造住宅を思い浮かべるかもしれないし、また、別の人は、昔自分が住んでいた藁葺き屋根の家をイメージするかもしれない。この2人の「家」に対するイメージは異なるが、それで良いのか。
反論2:表現の中には、イメージが思い浮かばないようなものが存在する。例えば、「そして」のような接続詞や打ち消しを表す「ない」などに関しては、イメージは浮かばない(と思う)。そもそも、そうした表現に接して生じるイメージなど存在しないのではないか。

(2)指示理論:表現の意味とは、その表現の指示対象である。例えば、「富士山」という固有名詞の意味は、その指示対象である富士山そのものである、という理論である。
反論1:2つの表現「明けの明星」と「宵の明星」はどちらも指示対象としては金星である。しかし、その意味は明らかに異なる。観測される時間(時間帯)や方角が異なる。
反論2:「そして」などの接続詞に指示対象などは存在しないように思われる。
反論3:「世界で最も人口の多い都市」という表現は、意味としては理解できるが、その指示対象は時代(年代)によって異なる。
反論4:「犬」という表現について、その指示対象は、個別具体的な(一匹の)犬なのか、それとも犬全体あるいは「犬の集合」なのか。つまり、普通名詞の指示対象が何か、はっきりしない。
反論5:例えば抽象名詞「美しさ」の指示対象は何か。何らかの具体的な「美しいとみなされている美術品」のようなものが指示対象なのか。

以上の2つの意味理論の他にも意味理論はあるが、いずれも問題を含んでいる。上記の反論にみられるように、言語表現といっても、名詞(固有名詞、普通名詞、抽象名詞など)、形容詞といった品詞ごとに、別々の「意味」の定義が存在してもよいかもしれないが、できれば全ての品詞に適用可能な意味理論が望ましい。しかし、文の意味については、さらに奥が深い。論理学では、文(論理学では命題などということが多い)の意味は「真」とか「偽」といった真理値のことをいう。これは、論理学という専門分野では、デファクトスタンダード(当たり前のこと)ではあるが、論理学以外の分野の人にとっては、なかなか理解できないのではないかと思う。
以上、言語表現の意味について、ほんの少し触れたが、単純な問題ほど奥が深い。(心理学部教授・青山広)