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再帰的パラドクス

2019年07月25日心理学部

世の中にパラドクスと言われる事象は数多く存在するが、ここでは、言葉に関する再帰的パラドクスと言われるものを取り上げる。以下、すべての文は真か、真でない(つまり、偽)かのいずれかであり、真でもありかつ偽でもあることはないと仮定する(古典2値論理)。なお、「真」とか「偽」を真理値という。

(はがきのパラドクス)一枚のはがきの表と裏につぎのような文が書かれている:

表:「このはがきの裏面に書かれていることは真ではない」
裏:「このはがきの表面に書かれていることは真である」

さて、このとき、このはがきの表面の文が真とすると、裏面の文は偽となり、その文の内容から、表面の文は真ではなくなる、つまり、偽となる。逆に、表面の文が真でないとすると、その文の内容から、裏面の文は真となる。したがって、裏面の文の内容から、表面の文は真となってしまう。いずれにしても、表面の文が真でもあり偽でもあるということになってしまい、古典2値論理に矛盾する。同じことが、裏面の文についても言える。

さて、このパラドクス(矛盾)を解消しようとする試みはいろいろ考えられるが、どの試みも問題を含んでいるようである。たとえば、古典2値論理という条件を3値論理に変更する方法である。つまり、新しい真理値として「不明」というものを導入し、「すべての文は、真、偽、不明のいずれかの真理値をもつ」とするのである。ここでは説明を省くが、この場合でも、新たな矛盾が生じてしまう。

はがきのパラドクスには、同種のパラドクスが数多く存在する。最も単純なものは次の文から生じるパラドクス(うそつきのパラドクス)である:

「この文は真ではない」

この文を「うそつき文」というが、このうそつき文の中に出てくる「この文」という語句はこのうそつき文自身を指示している。古典2値論理の条件のもと、矛盾が生じる。うそつき文が真とすると、その内容から、うそつき文は偽となる。逆にうそつき文を偽とすると、その内容から、うそつき文は真となってしまう。このうそつきのパラドクスは古代ギリシアの哲学者エピメニデス(Epimenides)の発言に由来するとされるが、このパラドクスの研究(パラドクスの解消)は今も継続中である。

なお、再帰的パラドクスの一つに次のものがある。ある会社の社員Aさんが2人の上司B、Cから別々の機会に、次のように命令(指示)をされたとしよう:

B:「Cさんの命令に従いなさい」
C:「Bさんの命令に従ってはいけない」

今、AはB、Cの2人から、上記以外の命令は受けていないとする。このとき、AがBの命令に従おうとすると、Cの命令に従うことになるが、Cの命令の内容から、AはBの命令に従ってはいけなくなる。逆にAがBの命令に従わないようにすると、Bの命令の内容から、Cの命令に従うことはできなくなる。ということは、Cの命令の内容から、Bの命令に従わざるを得なくなる。命令には「従う」か「従わない」かの二者択一しかないとすると、AはB、C2人の命令に接して、進退窮まることになる。これに似たような状況は、日常生活の中で、可能性は低いが十分起こり得るものである。このようなパラドクシカルな状況に巻き込まれたとき、あなたはどうしますか?

青山 広(論理学、言語哲学)

参考文献:青山広『再帰的パラドクス』近代文芸社、2000年