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心理学部
2019.11.01

私たちの考え方がかわるとき -認知的不協和理論-

私たちは,自分の考えや態度はしっかりしていて,きちんと理由に基づいていると考えていますが,自分にとって都合良く考えや態度を変えることがあります。例えば,浮気をしたり,暴力を振るったりするようなダメな彼氏と別れないで交際し続けているような女の子の友達がいたりすると,「どうして,この人は別れないのだろう? 自分だったらすぐに別れるのに」などと考えたことはないでしょうか。

これらの現象について,フェスティンガーは認知的不協和理論を提唱して説明を試みています。人は,いつも自分の考え・態度と自分の行動が一致しているとは限りません。その一致していない状況は,とても自分にとって不愉快なので,不愉快じゃないように変えると考えられます(動因低減と言います)。例えば「安いバイト代で働くのは嫌だ」と思っているけれども,実際には「安いバイト代で働いてしまっている」状況を想定してみてください。これは自分の考え・態度と自分の行動が一致していません。このような場合には,一般的には自分の考え・態度に合致するように行動を変えることが考えられるでしょう。「安いバイト代で働くのは嫌」だから「安いバイト先をやめる」となるかもしれません。しかし,「バイトを辞めると言い出しにくい」などの理由で,なかなか自分の行動が変えられない場合もあります。その場合には,行動を変えることで自分の考え・態度と一致させることが出来なくなります。そのような状況に陥ると,人は自分の考え・態度を変え,自分の行動に合わせることで,一致していない不愉快さを低減しようとします。例えば「安いバイト代で働いてしまっている」という自分の行動に合わせるために,「安いバイト代で働くのは嫌」という考え方から,「バイト先は良い人ばかりだから安くても続けたい」とか「お金じゃなくて,仕事が楽しいからやってる」と変えることによって,自分の考え・態度と行動の不一致をなくして,安定するようにするのです。従って「バイト先は良い人ばかり」と思っている人は,実は「バイト代が安くて不満だけれども,バイトがやめられない」という自分の考え方に気づかないようにしているだけなのかもしれないですね。

ダメな彼氏と別れられない女の子の中でも,同じようなことが起こっていると考えられます。「浮気したり,暴力を振るったりするダメな彼氏は嫌」という自分の考え・態度と「ダメな彼氏と交際している」という自分の行動は不一致だから不愉快になります。このときに「ダメな彼氏と別れる」というように自分の行動を変えることが出来たら,自分の考え・態度と行動が一致することで安定します。しかし「別れようって言うと何をされるかわからない」とか「別れようとすると泣いて『別れないで』と言われる」とかなどで,彼氏と別れることが出来ないとなると,行動は変えられないため,考え・態度を変えることになると思われます。したがって「ダメな彼氏と交際している」という自分の行動に一致するように,「それでも私は彼氏が大好き」とか「彼氏にも優しいところがいっぱいある」などと自分の考え・態度を変えることによって,不一致による不愉快さを低減すると考えられます。

他人から見るととても不思議なことでも,何らかの心理的メカニズムが発動して,そのような現象が生じている可能性があります。これらの心理的メカニズムを解明していくのも心理学の役目だと思います。
 
伊藤君男(社会的認知,社会心理学)

参考図書:Festinger, L. (1957). A Theory of Cognitive Dissonance. California: Stanford University Press.