癒される風景
梅の花が咲き、ようやく春の兆しが感じられる良い季節となりました。今年の冬は例年より寒さが厳しく、名古屋でも雪がちらつく日も多くあり、全国ニュースでは雪景色が度々放映されましたね。
日本には四季があり、春夏秋冬、折々の風景は私たちを楽しませてくれます。また、1日のうちにも、朝日が昇る、陽だまりのなか、沈む夕日、夜の静けさなど、さまざまな場面があります。みなさんはどのような景色に惹かれるでしょうか。
ここで、癒しの風景に関する研究を紹介したいと思います1)。『草原』、『芝生』、『棚田』、『サクラ』、『バラ園』、『日本庭園』、『霧』、『雪』、『森の道』、『池』、『紅葉』、『夕日』の12枚の風景写真の中で、最も癒されると感じる風景を選択してもらい、その理由を尋ねたものです。この研究は、特に死に対峙する人々を癒す風景を探るもので、死に対峙する人として、『緩和ケアを受けている人』、『過去3年以内に家族などを喪い悲嘆ケアが必要とされる人』、『60歳以上の人』、『ホスピスなどの施設で働く人』、そしてその比較対象としての『若者』が調査対象者でした。その結果、すべてのグループで『草原』が癒しの風景として1位もしくは2位になりました。『草原』を除いて再分析を行った結果、若者を除くすべてのグループで上位を占める風景が『紅葉』『サクラ』『夕日』『森の道』『日本庭園』となりました。死に対峙する人は、風景の構成要素に魅力を感じること、時間概念を意識すること、守られていると感じる空間であること、死や生をイメージする風景であるという理由から風景を選択したことが明らかになっています。
また、配偶者を喪った人と自分自身の死に対峙している人(緩和ケアを受けている人)が癒される風景は『紅葉』が1位で『サクラ』が2位であり、兄弟や友人を喪った人と医療スタッフが癒される風景は『夕日』が1位で『紅葉』が2位であり、喪った人との関係性によって求められる風景が違う可能性が示唆されています。
さらに、『過去3年以内に家族などを喪い悲嘆ケアが必要とされる人』の調査結果からは、大事な人を喪った時期が半年以内の人が選択した風景は1位『紅葉』、2位『夕日』、3位『草原』でしたが、喪った時期が1年前や2年前の人の選択は1位『草原』、2位『サクラ』、3位『紅葉』となっており、悲嘆からの時間によって癒しの風景が変化することが示されています。
大事な人を喪う悲しみは人それぞれであり、簡単に癒えるものではないと思いますが、それでも風景によって癒される可能性があることに私は大きな期待をもっています。
私は、水のある風景の絵を描くことによる心理療法的効果についての研究を行っています。水のある風景を描いてもらうと、「昔を懐かしく思い出した」「川のせせらぎの音が聞こえる気がした」などの感想が多く聞かれます。「癒しの風景」には「感じる風景」と「関わる風景」があるという指摘2)がありますが、心のなかにある風景を描くことは、自分が大切にしている風景に積極的に関わる行為であり、それが治療的効果につながるのではないかと考えています。
もうすぐ桜の季節です。桜の風景はあなたにとって、どのような意味をもつでしょうか。
1) 浅野 房世・高江洲 義英(2005).死に対峙する人々を癒す風景に関する研究 日本芸術療法学会誌,36,55-64.
2)浅野 房世・高江洲 義英・山本 徳子(2006).「癒しの風景」イメージに関する研究 人間・植物関係学会雑誌,5,25-30.