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心理学部
2022.06.06

潤沢な時間は人を幸せにするのか?

 桜が咲き誇っていた春の季節からすっかり時が過ぎ,夏を感じる日々が多くなってきましたね。新年度が始まって,色々と環境が変わる中で忙しい日が多く,今日まであっという間に過ぎてしまったと感じる人も多いかもしれません。そのような中で,「もっと時間がほしい」,「1日が24時間より多かったら」などと思う方もいるでしょう。
 このように,日々の生活の中で時間が足りず,より多くの時間を求めているような状況を「時間飢餓」と呼びます。食事が不足していて栄養が十分に取れていない状況を飢餓と呼びますが,時間が足りない状況を飢餓という表現で描写しているわけですね。この時間飢餓は,現代における社会的な問題の1つとなっており,社会人はもちろんですし,様々な課題や活動に追われる学生においても度々みられる現象であると言えます。
 時間飢餓の状況にある方は,ストレスを経験しやすく,幸福感なども低いとされています。これは,時間が足りないことで自分の好きな活動(以下,余暇活動とします)に従事することができなかったり,十分な睡眠や休息が足りなかったりすることによって生じます。しかし,ここで1つの疑問が生じます。それは,「時間が潤沢にあれば,本当に人は幸福なのか?」ということです。
 ここで,関連する研究を紹介します。この研究では,上で書いた「時間が潤沢にあれば,本当に人は幸福なのか?」ということについて,複数の実験や調査によって検証しています。その結果,「ある一定の水準までは,余暇活動に割く時間が増えることによって幸福感が高くなるが,その水準を過ぎると幸福感はそれ以上高くならない」ということが分かりました。つまり,「余暇活動に割く時間が多ければ多いほど幸福になるというわけではない」ということです。具体的には,幸福感がピークになるのは余暇活動に割く時間が2~5時間くらいのケースでした。
 さらに,この研究では余暇活動の内容に着目したうえで,もう1つ面白いことを発見しました。それは,「余暇活動が非生産的なものである場合,余暇活動に割く時間が多くなるほど幸福感はむしろ下がる」ということです。ここで,非生産的な活動とは,「ただぼーっとしている」,「ひたすら動画やテレビを観る」,「他の人が何かやっているのを観察する」などの受け身的な活動が該当します。逆に,生産的な活動とは「体を動かす」,「何か目標を達成するような活動をする」,「何かを自分で作る」が該当します。生産的な活動の場合は,余暇活動に割く時間が多ければ多いほど,幸福感が高くなる傾向があることが分かりました。
 これらをまとめると,自由な時間があればいいというわけではないということ,そして自由な時間がある場合,なるべく生産的な活動をした方が幸福感につながりやすいということです。忙しい時には,ついつい自由な時間を無為に過ごしてしまいがちですが,そういう時こそ限られた時間を有意義に使うように出来るといいですね。
                                                    長峯 聖人
 
1) Sharif, M. A., Mogilner, C., & Hershfield, H. E. (2021). Having too little or too much time is linked to lower subjective well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 121(4), 933–947.